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土と内臓
2019年10月 7日
今日の一冊はこれ。なかなかタフな本なので何度も挫折しながらも繰り返し読んでいます、
私はもともとのどかな田園風景の広がる兵庫県の田舎町の生まれで、高校を卒業するまで住んでいました。
周辺の道路は私の子供の頃まで舗装されていないところも多く、交通量もさほど多くはなかったこともあり、地域に初めて信号機がついたのは私が6歳の時でした。
その時にはお祝いのため地域を挙げての一大イベントが開かれ鼓笛隊がパレードをしたほどです。
そんな自然豊かで、日本の高度成長からはやや取り残された感のある地域で生まれ、土とも近い生活をできる地域で幼少時を過ごした私が、どうして成人してから潰瘍性大腸炎という難病を発症することになったのでしょう。
教科書的には遺伝的な要因に環境因子が加わり、、、と難しいことが書いてありますが、結局は「原因不明」とされています。疫学的には先進国で急増しており、特に都市部に多い疾患です。
この事実は、都市型生活がいかに不自然なもので人間の本来の生体機能を混乱させているものかを教えてくれています。
医学の父ヒポクラテスは、「人は自然から遠ざかるほど病気に近づく」と述べたそうですが、まさにその通りのことが今の現代社会では起こっています。
私自身の経験からこの事実を考察すると、私たちと共生する細菌「Microbiome」達の多様性と、土壌に生息するMicrobiomeの深い関係が関係していると思われます。
私たち人間も自然の一部で、周囲の動物や微生物達と共生しないと生きていけない事実は近年の科学がやっと明らかにしてきたところですが、経験的にヒポクラテスの時代から知られてはいたことなのです。
化学肥料の開発で、農家の生産性は飛躍的に伸びたと言われていますが、実際にその事実が人間の健康に寄与してきたのでしょうか?
植物が健全に成長していくには、土壌からの栄養素の吸収を土壌に生息する微生物によるところが大きいのですが、化学肥料や農薬の使用は土壌に生息する細菌達の多様性を減らし、植物に含まれる栄養素を激減させています。
と同時に、そのような食材を口にする人々の腸内環境というものは、やはり腸内細菌の多様性が減少していることが知られています。さらに、抗生剤の多用や、保存料や人工甘味料などの添加物も腸内細菌には大きなダメージを与えていることが明らかになっています。
化学肥料と同じように、質のいいサプリメントを摂取しても腸内細菌が整っていなければ栄養として活用は期待できないのです。
つまり土壌などの環境における細菌の多様性の減少は、私たち人間の腸内細菌の多様性の減少とも密接に関連しています。
今や、田舎といえども、多くの農家達は農薬や化学肥料を使うことをお上から推奨され、見た目のいい食材しか出荷できない社会になってしまっています。
私の育った田舎でも当時(1970年代)から農薬や化学肥料は広く使われていましたし、私自身は幼少時から比較的抗生剤などの薬にアクセスしやすい環境で育ったことも、のちに発症する病気と少なからず関連があると考えています。
私たちは一度手にした便利さを手放すことはなかなか難しいのですが、今一度立ち止まって、微生物達との共生について考え直す時期に来ていると思います。
一旦多様性を失い大きく乱れたバランスとなった腸内細菌のバランスを、根本的に変化させることは小手先の対策だけでは正直難しいと思います。それには食事だけでなくライフスタイルや考え方などもに直す必要があるかもしれません。
私の受けた腸内フローラ移植という治療法は、健康な人の多様性の豊かな腸内細菌を治療として移植するものですが、腸内細菌のバランスを変え、腸管で起こる免疫応答に大きな変化を起こさせることが期待できる治療法のひとつです。
(ご関心のおありの方はご相談ください)
誰しも自ら願って病気を患うことはないでしょうが、不本意にも腸内細菌の多様性を失い難病を発症してしまった場合には、非常に大きな可能性を秘めた治療と思われます。
できれば、このような特殊な治療を受ける必要のないように、普段から腸内細菌や環境に生息する微生物の多様性を維持できるような持続可能な(サステイナブルな)生活を心がけたいものです。
そして私たち一人一人に備わった叡智は、「今自分が何をすべきか」を気づかせ、より健全な行動を可能にすることができると信じています。 Dr.城谷昌彦
20年以上消化器内科医として臨床をやってきたことで、非常に多くの患者さんから学びと気づきを得る事ができました。 その経験に加えて、何より自分自身が大病を患った経験を通して、一人の患者として「自分が受けたい医療」という視点を大切にしたいと考えて、日々の気づきをつらつらと芦屋から配信していきます。
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