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微生物を介した人と環境の再接続
2021年10月30日
先日クリニックの休診をいただいて、桐村ご夫妻が新たな拠点を構えられた米子に日帰り訪問してきました。
桐村一平・里紗ご夫妻は以前より従来の医療やヘルスケアの枠組みを超えた、革新的かつ本質的なヘルスケア・ウェルネスを提案されるお二人です。
お二人は今年に入ってからソニーCSLの舩橋真俊氏の提唱する「協生農法」の実践を、米子の地において始められました。
桐村里紗先生の最新の著書「腸と森の「土」を育てる」によると、「協生農法」では、生物多様性の減少と環境破壊の元凶になっている、耕起、施肥、農薬の使用を全面的に行わないことを基本とします。生産過程で畑に持ち込むものは、種と苗だけです。
また、有機農法で使用する有機堆肥や微生物資材なども使わないことがルールです。
協生農法は、自然以上に高度な機能を発揮する生態系を構築しながら、生産性を高めることを可能にしていることが、革命的とも言えます。
最終的には、原生林以上に多様な生物種が息づく森林のような状態を作り出すことができると言います。
単一作物を栽培する慣行農法では、生物多様性をならし、土を耕すことでその土中の微生物のネットワークを破壊し、人に都合のいい良い作物を植える人工的な行為と言えます。作物の生理学的な特性から考えると単一作物を作るには効率的な方法ではありますが、あくまでも「部分的」な最適化と言えます。「全体」の最適化を考えた場合、生態学を踏まえたアプローチの方が全体での生産性を高められると言います。その答えが「協生農法」というわけです。
ここまで書いて、勘のいい方はお気づきのことかと思いますが、同様のことが私たちの腸の中でも起こっているのです。
近年の分子生物学の進歩の恩恵を受けて、腸内細菌叢(腸内フローラ)を構成する菌の種類やバランスを詳細に知ることが可能な時代になってきました。そして、詳細を知るにつれ、現代人の腸の中では腸内細菌の多様性が失われ、ディスバイオーシス(dysbiosis)と呼ばれる腸内フローラの乱れが多く観察されることが明らかになってきました。
腸内フローラのディスバイオーシスは消化管の疾患のみならず、全身の疾患と関連が深いことも明らかになってきており、多くの疾患の根本治療には、このデォイスバイオーシスをいかに改善させ、菌の多様性を増やすことが重要とされています。
もともと、もっと土に近い生活を送っていた私たち日本人の先達は、現代人に比べると日常生活の中で微生物との交流を持つ機会が多く、私たちの体の内外に生息する常在菌の多様性を獲得するにはとても理にかなった生活だったと考えられます。
それが戦後の急激な生活スタイルの変化は、私たちを土から遠ざけ、豊かな微生物との交流を分断することにもなりました。
戦後増加の一途を辿るアレルギー疾患や自己免疫疾患、精神疾患、自閉症、悪性腫瘍など様々な疾患の治療を考える上で、これまでのように個人の閉ざされた身体の中でのことのみを考えていては、うまく答えにたどり着けないばかりか病態をより複雑化してしまいます。
これらの疾患の成り立ちや治療を考えた場合、私たちと共生している微生物の存在を思い出し、彼らとの再接続がキーワードになると考えています。それも、単一作物を栽培する慣行農法が孕む多様性の減少に加担することなく、より微生物の多様性にも着目したアプローチが重要です。
かつて日本人は「肚」とつながり、「肚」で決断し行動したと言われています。それができた背景には、今よりももっと土に近い微生物との豊かな交流があったからとも言えます。
本来日本人が当たり前にやっていた微生物との交流を、明治以降、西洋に追いつけ追い越せで、肚から切り離され交感神経を常に発動させた頭でっかちな状態になった私たち日本人。無意識や自己(セルフ、本当の自分)とも近い「肚」ともう一度つながり直すことが急務のように思われますが、今のヘルスケアのアプローチだけでは不十分です。かつては日本人は多くの人が当たり前にできていたことを、今の時代になって再度やり直すという若干アイロニックな光景にも映りますが、頭の過活動を沈め、身体の声、肚の声に耳を傾ける作業が必要なのでしょう。
この度、ホリスティックな医療を長年実践されてこられた田中クリニックの田中善先生の呼びかけで、来春までには医農連携(仮称:プラネタリーヘルス研究会)の構築に向けて準備を始めます。活動の幅が広い桐村ご夫妻の橋渡しをいお願いして多職種の方を巻き込んでいきますので、ご興味のある方は是非「巻き込まれて」ください。
※プラネタリーヘルス研究会(仮称)の立ち上げに先立ち、桐村里紗先生、小池雅美先生(臨床分子栄養医学研究会特別認定指導医)をお招きして11月27日(土)にセミナーを行います。お誘い合わせの上是非ご参加ください。(会場+オンライン開催。お申し込みいただいたすべての人に後日動画視聴可能(期間限定)なURLをお送りいたします)
お申し込みはこちら≫ Dr.城谷昌彦
20年以上消化器内科医として臨床をやってきたことで、非常に多くの患者さんから学びと気づきを得る事ができました。 その経験に加えて、何より自分自身が大病を患った経験を通して、一人の患者として「自分が受けたい医療」という視点を大切にしたいと考えて、日々の気づきをつらつらと芦屋から配信していきます。
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