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過敏性腸症候群(IBS)の確定診断が血液検査で行えるようになりました
2020年6月22日
過敏性腸症候群(IBS)は突然の腹痛や膨満感、下痢や便秘などの慢性的な消化器症状を伴う疾患ですが、この疾患で悩んでいる人はある調査によると日本人の約10〜15%(約1200万〜1800万人)にも及ぶと言われています。
現在の診断基準では、IBSはその症状のタイプにより「下痢型」「便秘型」「混合型」「分類不能型」に分類されます。
IBSの代表的な症状の一つに腹部膨満感がありますが、腹部のガスの溜まりやおならが目立つタイプをかつては「ガス型」と呼ばれていましたが、最新の分類では先述の4タイプに分けられています。
近年、IBSに合併しやすいとされる小腸内の細菌異常増殖(SIBO)が注目されるようになりましたが、その主な症状は小腸でのガスの過剰発生に伴う「腹部膨満感」です。これはかつて「ガス型IBS」と呼ばれた病態に非常に近いものであると考えられ、ある研究では全IBS患者の60%〜80%にSIBOを合併しているということが明らかになりました。
IBSの確定診断はこれまで除外診断を行う必要がありました。一般的にIBSの診断にはRomeⅣ診断基準(表)を用いられてきましたが、実際のところ、これらの症状はIBS以外の方にもある症状ですので、IBSを確定診断させるためには、他の疾患ではないということを証明することが重要です。しかしながら、多くの場合慢性的な腹部の不快感があり、炎症反応がなく、下血等の危険サインがない場合は「IBS」とされてしまうことが多く、時には根拠もなく「心因性」とされ心療内科に紹介されるケースも多くあります。
つまり「この検査で陽性が出ればIBSですよ」と言える検査がこれまで存在しなかったために、IBS様の症状を呈する患者さんの中には、医師との信頼関係がなかなか築けず、次から次へとドクターショッピングを繰り返したり、治療も途中でやめてしまうことも多くありました。
そんなIBSを取り巻く事情をガラッと変えてしまう様な論文が米国から2019年発表されました。Mark Pimentel博士らはIBSの中でも特に下痢型と混合型では、ある特定の抗体(異物を体内から排除するために身体の中の免疫細胞で作られるタンパク質)が有意に陽性率が高いことが分かったのです。つまり、免疫の異常がIBSの原因である可能性が出てきたのです。その機序は次の通りです。
『食中毒がIBSの原因だった!?』
- カンピロバクター菌、サルモネラ菌、病原性大腸菌、赤痢菌などによる食中毒(感染性腸炎)を起こす。(図1「Infection:感染」)
- 食中毒による胃腸炎の原因となる病原菌が放出する外毒素に対して、免疫反応が起こり「抗CdtB抗体」が産生される。(図1「Immune Responce:免疫応答」)
- 抗CdtB抗体の分子構造の類似性より、細胞接着タンパクの一種であるVinculinに対する抗体「抗Vinculin抗体」が産生される。(図1「Autoimmunity:自己免疫反応」)
- 抗Vinculin抗体が細胞を支えるタンパクであるVinculinの他にタイトジャンクション(細胞接合構造物)、神経細胞を破壊する。(図1「Autoimmunity:自己免疫反応」)
- 腸の蠕動が阻害され、Migrating Motor Complex(MMC:空腹時に起こる腸の大きな蠕動で、異物や異常増殖した細菌を掃除する役割がある)の活性が低下する。これがIBS(下痢型、混合型)やSIBOの原因となる。(図1「IBS-D or IBS-M:IBS下痢型またはIBS混合型」)
以前より食中毒などによる「感染性腸炎」を起こした人の中で、後に約10%の人にIBSが発症することが知られていました(感染後過敏性腸症候群:IBS-PI)。
この方たちを調べると、上記の機序のように自己抗体が産生されることで腸の機能が阻害され、IBSが発症していることが分かったのです。
そこで、感染の既往がないとされるIBS患者でも調べてみると、なんとIBS-D、IBS-Mでは有意に抗体価が高いことがわかり、特にIBS-Dでは60%近い人が抗体を持っていたと言うのです。つまり、IBS-DやIBS-M(場合によってはSIBO)と診断されている人の多くは、自覚症状はないものの過去に感染性腸炎に罹患したことをきっかけとして、抗CdtB抗体や抗Vinculin抗体などの自己抗体が産生され、これらによる自己免疫反応によるIBS(またはSIBO)の症状を発症していることが明らかになってきたのです。
先述のように、これまでIBSの診断は基本的には除外診断であり、確定診断を行うには他の疾患(例えば食物不耐症、炎症性腸疾患など)でないことの証明が必要でした。しかし、この画期的な検査のおかげで、IBSの中でも特に下痢型と混合型ではこれらの抗体検査が陽性の場合、ほぼ100%の確率で「IBS」と確定診断ができるようになったのです。
『これまでの常識を覆すIBSに対する血液検査』
これまでIBSの確定診断を得るために様々な侵襲的な検査などを受けた挙句にやっとIBSの診断を下していたものが、この抗体検査(血液検査)を受けるだけで確定診断ができる症例が増えることになり、多くのIBS様の症状で悩んでいる方には、白黒はっきりするため恩恵になるものと考えています。
米国では2019年よりgemelli biotech社がPimentel博士の監修のもと抗CdtB抗体と抗Vinculin抗体の測定を「ibs-smart」と言う名称で行なっていますが、それ以外の国での普及が待たれていたところでした。
2020年の初頭より当院ではgemelli biotech社と交渉を続けてきましたが、この度このibs-smartを日本で初めて導入することとなりました。
今後、腹部膨満感や腹痛、下痢や便秘など慢性的な腹部症状でお困りの方を診断していく上で、このibs-smartが大変役に立つものと考えています。
同様の症状で、まだ診断のついていない方や、診断はされたけど抗体の有無を調べたいと言う様な方は、ぜひ一度このibs-smartをお受けになることをお勧めいたします。
もしこの検査で「陽性」が出た場合、ほぼ100%の確率で下痢型か混合型のIBSということになりますが、抗体が腸蠕動を阻害するという機序を考えると、SIBOも合併している可能性も高いと考えられます。
『次世代型過敏性腸症候群検査「ibs-smart」について』
検査料金 35000円(税別)のところ、2020年8月31日までに検査をお受けになられた方には26250円(25%引き・税別)で提供いたします。
検査結果返却までに要する時間:約10日程度
検査は血液検査で行います。(来院でのみ検査が可能です。オンライン診療にでの検査はできません。)詳しい検査結果の解説については検査後に医師にお尋ねください。
注)ibs-smartは厚生労働省の認可を受けた検査ではありません。保険は適用されず自費診療となります。
Dr.城谷昌彦
20年以上消化器内科医として臨床をやってきたことで、非常に多くの患者さんから学びと気づきを得る事ができました。 その経験に加えて、何より自分自身が大病を患った経験を通して、一人の患者として「自分が受けたい医療」という視点を大切にしたいと考えて、日々の気づきをつらつらと芦屋から配信していきます。
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