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土いじりの効能
2019年11月29日
以前から慢性疲労症状や便秘症などで当院に通っている女性が、今日の外来に数ヶ月ぶりにとてもいい顔をしていらっしゃいました。
最近は随分と調子が良く過ごされているようで、
どうやら聞くところによると
「土いじり」
を始めたとのこと。
数ヶ月前に来院された時に
購入してくださった私の本の中に紹介していた
腸内環境を整える方法の一つとしての
「土いじり」
を実際に自宅の庭で始められたとのことでした。
ちょうど先週のネットニュースで、「土いじり」が果たす健康に対する効果について注目していたところでしたから、非常にタイムリーな出来事でした。
そのニュースに取り上げられていた論文によると
土壌に生息する腐生性細菌 Mycobacterium vaccae菌に
・抗炎症
・免疫調節
・抗ストレス作用
が確認されたとのことでした。
このMycobacterium vaccae菌は以前から、抗うつ効果があることが知られており、土に近い生活をしているほど、うつになりにくいとされていましたが、この度さらに他の効能も確認されたことになります。
以前から診察室で感じていたことですが、農家の方や、土いじりの習慣のある方は、比較的健康な方が多いのです。
これには農作業で体を動かすということ以外に、土の中の細菌に触れること自体が、健康に大きく寄与しているということのようです。
しかし、近年問題となっているのは、農地においても化学肥料や農薬の影響で、土壌菌の多様性が少なくなっていることです。
多様性の少なくなった細菌叢が住む土壌は、命を育むエネルギーが低下し、そこに育つ植物の栄養素も少なくなることが確認されています。
これは私たちの腸内細菌にも言えることで、
土から離れた生活をしている都会の人ほど
その多様性は低く、
様々な疾患との関連が示唆されています。
豊かな生態系を維持している
森林のエコシステムは
多様な生物が相互に作用し、
絶妙なバランスで成り立っています。
このエコシステムが、
人間のエゴにより一旦破壊されてしまうと
小手先の対策では元に戻すことはできないのです。
同じことが腸内環境にも言えます。
腸の中に生息する腸内細菌たちは、本来多様性が高く、お互いの産生する代謝産物を利用しあったり、私たち宿主がそれを利用させてもらったりしながら、絶妙なバランスで腸内エコシステムが成立しています。
そして腸内環境を改善して治療を考える場合、腸内環境に大きな影響を与える「食」を考えずして成り立ちません。
ですから健全な「食」を追求すると
「土」に行き着くのは必然なのです。
今の医療は科学技術の発展とともに、目を見張るような発展を遂げてきました。
しかし残念なことに「土」から、非常に遠くなってしまったことが、難病や慢性疾患が増えていることと少なからず関連しています。
未だ多くの医師が「病気には薬」
という方程式から抜け出せずにいますが、嬉しいことに一部の医師たちは、食や土の重要性に気づき始め、実際に行動を起こし始めています。
近い将来、「病気には土と触れ合う」という発想が当たり前になり、実際に医師が患者に処方する日がくることでしょう。 Dr.城谷昌彦
20年以上消化器内科医として臨床をやってきたことで、非常に多くの患者さんから学びと気づきを得る事ができました。 その経験に加えて、何より自分自身が大病を患った経験を通して、一人の患者として「自分が受けたい医療」という視点を大切にしたいと考えて、日々の気づきをつらつらと芦屋から配信していきます。
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